ペンションひみつ基地のトップページへ

プロローグ:「ドキドキドキドキ…」

6/6土曜日の夜8:00過ぎ、私は愛車Lanzaに乗ってバイク屋に向かっていた。

女神湖スカイエンデューロに参加するためだ。

オフロードバイクに乗り始めて4ヶ月、初めてのレースだ。
店長の「だまされたと思って出てみてください!」の一言で出場を決めてしまったが、果たして正しい判断だったのか・・・。店長の「だまされたと思って」が出る時は大概凄いことになるからだ(またそれを楽しいと思う自分にも問題があるのだろうが)少しずつ緊張感が増していくのが自分でも分かる。
おいおい、まだ野田も出ていないんだぞ・・・。

バイク屋に到着して早くも過ちが発覚。
やる気満々だった私はもう、いつでもレーススタートOKの格好で来てしまったのだ。今日は移動だけで、向こうに着いたら仮眠すると言うのに・・・。

さらに、サンダルやレース後の着替えなどの重要なグッズを忘れた事にも気づいた。幸いサンダル等は貸してもらったが、今からこんな事ではこの先どうなる事か知れたものではない。

いきなり緊張感がアップしてしまった。
柏インターから常磐道に乗り、外環、関越道とつなぎ、途中高坂と横川で休憩を取り、佐久インターで下りた。そこから約1時間で女神湖に到着。搬送用のワンボックスカーから私ともう一人の参加者のバイクを下ろして、中にマットを敷き寝袋で寝る。いくらワンボックスとは言え、4人で寝るのは厳しく、私ともう一人の参加者は比較的楽に寝させてもらったが、サポーターの2人には寝辛いこととなってしまった。「昼寝できるからいい」とは言ってくれたが、申し訳ないことだ。
その晩は夏用のコンパクト寝袋にも関わらず熟睡、決戦の日曜日の朝となった。

スタート:「みんな速―い!」

決戦の日曜日の朝がやってきた。
7:30から参加登録確認とバイクチェックがはじまるのでその前に朝ご飯を食べる。サポーターがコーヒーを沸かしてくれた。が、すぐにアイスコーヒーになってしまった。えらく寒いのである。

それでもパンを食べ、デルモンテ野菜ジュースを飲み、ヨーグルトを食べて、おやきを食べた(さすが長野、コンビニにおやきが売っているとは!)。

タイヤの空気圧チェック、ネジの増し締め、ゼッケン取り付け、ライト類のテーピング等を済ませて参加登録確認とバイクチェック。しかし、バイクチェックから帰ってくるとエンジンの調子が悪い。
空気が薄いので調子が悪いのかとも思ったが、そう言えばさっきCRMは元気に走っていたなあ・・・。おおっと、いかんいかん。燃料コックがoffになっているではないか。搬送中はoffにするということを知らない、初心者のミスである。とはいえ、やはり空気が薄いせいか(標高1500m前後)エンジンの反応はやや鈍い。

が、かえってこの方が扱いやすいかもしれない、と根拠の無いことを自分に言い聞かせて近くを走りまわる。それから本当にかなりしばらくしてからライダーズミーティングがあって、主催者の方から諸注意があった。インパクト勝負のXクラスエントラント紹介では、クレヨンしんちゃんやら、全身から手が生えた人やら、ヤクルトの格好をしたお姉さんやら色々で、緊張していた私にとっては違う世界の出来事のようだった。

また、雑誌(BackOff)の取材も来ており、集合写真も撮った。
一番前にいたのできっと雑誌に載ることだろう(結構余裕!?)。

その間に搬送車はコース内のピットエリアに移動した。バイクはマーシャルカーの後について、一列縦隊でコースに向かう。自分のピットエリアに着いたらミラーとナンバープレートを外す。もうコース内は公道ではないし、むしろ走っているうちに落としたり、転倒して破損するほうが恐いのだと教えられた(実際にナンバープレートやら、サイレンサーやら、果てはキャリアまで落ちていたそうである)。スタートエリアに移動して、スタートを待つ。

緊張感から、大福、団子、ウィダーinゼリーと、どんどん食べてしまった。チームメイト(今回私のいるバイクショップからは5名が参加した)が「余裕だねえ。初めてのレースなのに。」と言うが逆である。私のゼッケン番号は162番でスタート順は42番である。

3台一組になってスタートするのでやたらと時間はかかるが、それぞれスタート出来るので、ポールポジションをとったかの様で気分はいい。そしてとうとう私の番が来た。

いざスタート!
林道に入ると周りの人はあっという間に行ってしまった。石だらけの所をしばらく行くと、フラットダートになった。できればここでペースアップと行きたい所だが、店長の「最初はコースも知らないんだし、様子を見ましょう。とにかく転倒無し、ノンストップを目指すようにしてください。順位は後から着いてきますから。」と言うアドバイスを思い出し(びびってもいたが)、抑え目で走る。
やがてまた石ころが増えてきた。しかも道が狭くなっている。谷側に落ちたら洒落にならない。どんどん抜かれるが、気にせずマイペースを守る。やがて林道は終わり、ピットロード(舗装路)に出る。

ピットエリアのサポーターが「ヒューヒュー!」と声援を送ってくれる。
よし、行くぞ!

2周目も安全運転を心がけ慎重に、びびりながら、無事に走る。
このまま行けば大丈夫かもしれないと思いつつ、3周目に入った。

中盤戦:「行けるか?」

3周目に入った。
林道に入る手前で時計を見ると、1周約30分のペースだ。
店長には5、6周位だろうと言われたが、このまま行ければ7、8周出来るかもしれない。 結構頑張っているようだ。そう思うと少し力みが取れた気がした。しかし油断は禁物。

マイペースを守る。それにしても、こういう状況ではその人の人間性が露骨に出るらしい。大会主催者は、抜く時には、クラクションで軽く合図してから抜ける所で抜くようにと言っていたが、それを守る人ばかりではない。もちろん、それ程余裕が無い場合もあるのだが(私のように)、後ろから思いっ切り煽ってくる者もいる。酷いのになるとハンドルの端を当てながら抜いていくのもいる(極端な例だが)。

そこまでされるとこちらもエキサイトして、「F**k you man!」(まあ、お下劣!!)と怒鳴ってしまった。すると、その人のすぐ後ろから来た人が「色んな人がいるけど、最後まで楽しく頑張ろう。なっ!」と言いながら抜いていった。途端にエキサイトしていた自分がひどく格好悪く感じた。そう。他人がどうこうでなく、このレースは自分との戦いなのだ。

3周目も残り1/4位になった時、下りのヘアピンコーナーで転倒した。左足をバイクの下敷きにしたがブーツのおかげでどうと言う事はない。速攻で引き起こし、若干曲がったパーツの位置を直して走り出す。4周目に入った。

どうやら知らず知らずのうちに気が緩んで調子に乗ってしまったらしく、コースを1/3程行った所で山側に転倒した。ひざを石にぶつけたがこれまたプロテクターのおかげで事無きを得た。しかし、ステップが曲がっているではないか。手でも、蹴っても直らないのでタイヤレバーを使ってテコの原理で直した。気を取り直して再び走り出したがまたもやトラブルに見舞われてしまった。

先の転倒後、時間を若干食ってしまったので無意識のうちにペースが上がっていたようだ。コース半分くらいの所で、今度は谷側に落ちてしまったのだ。落ちたといっても谷側に1mほど行ってしまった位なのだが、下の路面状態は最悪だった。前輪はササに乗っていて、後輪はフカフカの土の上にある。これではいくらやっても後輪は土を吐き出しつづけるだけで、前輪は一向に進路をとれず、上がれないままではないか。5分、10分ともがいている間にもどんどんと抜かれていく。このままレースが終わったらどうしようと思い始めたころ、誰かが止まってくれた。
見上げると、剣道の防具を付けた、どう見ても場違いな人ともう1人が下りてきて私のバイクを引き上げるのを助けてくれた。
おおっ、ありがたい!これでまた走れる!と喜び、お礼を言って走り出す。
が、さすがに1周に2度の転倒で体はびびりまくっている。1周で2度も落ちるというのは、どうも集中力が落ちてきているようだ。

一旦ピットに入って、一息つこう。ピットでメットをしたままウィダーinゼリーを飲んだ。トップの状況を聞くと8周目に入った所だと言うので、あと2周行けるかもしれない。気合いを入れ直して、「行ってきます!」レースは終盤戦に入っていった。

ピンチ:「帰れるのか?」

5周目に入った。
緊張はしているが、エネルギー補給した分体は楽になっている。十分に慎重にマシンを走らせる。体がコースを覚えたらしく大分コーナーの処理も上手くなった気がする(少し)。石ころだらけを抜けて、フラットダートを走り、上り道に入る。また石ころだらけになり、道幅は狭くなる。転倒した所や、落ちた所を思い出しながら注意深く走っていく。そしてやっと舗装路が見えた。でも油断は禁物だ。舗装路に入る所で倒れた人もいたのだ(こっちの方が痛い!)。ピットが見えた。

どうやらこれが最後の1周になりそうだ。「行ってきます!」と叫んで通過する。ファイナルラップに突入した。6周目も慎重に走る。

フラットダートはきちんとスピード出して行く。スピードを落とす所は落とし、コーナーを曲がり、石ころだらけの道を進む。6周目の3/4位まで来て、よし、これなら行けると思った。が、アクシデントは突然やってきた。前輪が滑り、転倒した。側頭部に物凄い衝撃が来た。ヘルメットをしていなかったら死んでいただろう(火曜日になってもまだ頭に痛みが少し残っていた)。

近くにいた人が「大丈夫ですか?」と聞いてきた。「大丈夫です。」と答えるが一瞬くらっとする。それでもバイクに這うようにしていき、引き起こす。ハンドルガードは端がちぎれたが、まあ、交換すれば良いだろう。ステップも曲がったがタイヤレバーで直した。さあ、出発だと思ってエンジンを掛けると、スロットルを開けてもいないのに「ヴァァァァーーーン!!!!!」と、物凄い音がする。一体どうしたんだ?とにかくエンジンを切る。寝転がってエンジン周りを点検する。当然どんどん抜かれていく。マーシャルカーに「もう最後だから頑張れ!」と言われるがそれどころではない。エンジンがイってしまうかもしれないのだ。このレースで最大のピンチが訪れた。

Finish:「I shall be back!!」

なぜスロットルを開けてもいないのにエンジンが異常な高回転まで回るのか?
スロットルワイヤーが引っかかっているのかと思ったがそうでもない。何回かワイヤーを引っ張ったりゆすってみたりしたがやはりエンジンは吠える。このまま走ってしまおうかとも思ったが、それではエンジンがイってしまうだろう。しかし、このままリタイヤはしたくない。転びながらもここまで来てリタイヤだけは絶対に避けたい。おい!こら、Lanza!しっかりしろ!!!

お前は"さまよえる蒼い弾丸(by B'z)"なんだぞ!!!
あと少しなんだ、頼むから元に戻ってくれ!!心は叫ぶがマシンは吠えるばかりである。パニックで沸騰寸前の脳みそで何とか事情を整理しようとする。しかし、スロットルワイヤー自体には問題はなさそうだ。とするとスロットルの開度センサーか何かに問題があるのかもしれない。でも、問題点も分からないのにどうしたらいい?
 もうこうなったら、と腹を括り、エンジン付近をたたいたり、蹴ったりしたが (済まない、Lanza!)効果はない。やけになってバイク全体をガシャガシャと揺さぶってみた。どうにかならないかと祈るような気持ちでセルを回した。すると、キュルルッ、パイーーン、パッパッパッパッパッ・・・聞き慣れたあのエンジン音が復活した!!!

これでゴール出来る!!!

涙が出るほど嬉しかった。思わずシートをバンバンと叩いてしまう。よし行くぞ!あれれ、でもゴーグルが無いぞ・・・?おおっと、首にぶら下げていたのを忘れていた。すっかり舞い上がってしまっている。もう転倒はいやだから、とにかく安全運転で行こう。残りの林道のほんの僅かな距離が随分と長く感じた。やがて舗装路に入った。やった!戻ってこれたのだ! ピットロードでは他のチームのサポーター達が手を振り、声を掛けてねぎらい、祝福してくれる。

そう、戻ってこれたみんなが勝利者なのだ。
ゴールがこんなに気持ちが良いなんて走る前は想像も出来なかった!
そして、チームのピットに入る。ちょっとオーバーランしてしまったので、マシンを少し戻して改めてゴールしてシャンパンシャワー(シャンメリーだけどね)を浴びる。みんな無事に戻ってきたようだ。最高だ。泥塗れの笑顔で記念撮影をしてレースは終わった。

それにしてもLanzaには助けられっぱなしだった。セル付き、足付き良しのコンパクト設計はまさに林道仕様。転倒時や、渋滞エンストしかも上り坂なんていう時はセルの有り難味を感じる。コケかかっても足つきの良さに助けられて、蹴り一発で体勢が立て直せる。これが腰高のバイクだと足の短い私には股裂きの刑になってしまう(その前にコケるだろうが・・・)。本当にありがとう、Lanza。これからもよろしく。

その後、結果集計(2時間位)の間に温泉に入り、景品抽選会と結果発表ならびに表彰式が行われる体育館に向かう。抽選会はうちのチームはみんな外れてしまった。私は162番スタートで、最終順位は総合178位だった。まあ、あれだけ色々あればこんなものだろう。でも次はもっと上手くなって来てみたい。秋にもやるらしいので必ず出よう。
心地よい疲労感を体に宿して、ワンボックスカーは高速を一路野田に向かった。

−終−

 

 

イベントレポートへ

ひみつクラブのトップページへ

ペンションひみつ基地のトップページへ